ゆかいなマーチ?スウィングやん! アメリカン・パトロール American Patrol - dive into a song

ErikaWittliebによるPixabayからの画像

 

今回はグレン・ミラー楽団の演奏で有名な、『アメリカン・パトロール』(American Patrol)を取り上げます。

2017年11月初旬のことです。アメリカン・パトロールのビッグバンド楽譜についてお客さまから調査依頼をいただき、いろいろインターネットで調べていましたら、いつものようにフツフツと疑問が湧いてきました……。(この記事は、2017年11月24日にオンラインショップのブログに公開した内容を編集したものです。)

 

まずはそもそも『アメリカン・パトロール』ってどんな曲?

このアメリカン・パトロール(American Patrol)の邦題は、『アメリカ巡邏兵(じゅんらへい)』と言うそうです。『ゆかいな行進』というタイトルをつけられてNHKのみんなのうたでも歌われたそうです。

1885年、フランク・ホワイト・ミーチャム(Frank White Meacham)さんが、作曲しピアノ曲として発表。

ということで、かなり古い曲です。発表された年代は、数多くの楽曲を生み出したティン・パン・アレイ(Tin Pan Alley)の発祥とされる年代ですね。

曲の内容は、アメリカ(USA、アメリカ合衆国)の兵隊さん(パトロール)たちの行進の様子を模っています。いわゆる描写音楽ですね。

曲中に、当時のアメリカの愛国歌『コロンビア』(Columbia, the Gem of the Ocean)と 南北戦争の南軍の象徴曲『ディキシー』(Dixie)のメロディーを使っています。ミーチャムさんは、この2つの挿入曲によって南北の融和を表したかったのだろうなぁとおぼろげながらに思います。

曲調はとても明るく、原曲はマーチ(ラグタイム・マーチとの記述もあり)ですが、テンポを落としてメロディーをなぞってみると、アメリカ民謡全般に通じる陽気さを感じます。

レコードやラジオの無い時代のことですので、演奏している人もその演奏を聴いている人も、さぞ楽しく幸せな気分になったことでしょう。

 

アメリカン・パトロールの編曲版

1891年、軍楽隊(ミリタリーバンド)向けに カール・フィッシャー(Carl Fischer)さんが編曲しました。

そして約50年後、グレンミラー楽団(Glenn Miller Orchestra、ビッグバンド)向けにジェリー・グレイ(Jerry Gray)さんが編曲し、第二次世界大戦中の1942年に録音し発売したレコードがヒットしました。

それぞれの編曲の内容を見てみますと……

カール・フィッシャーさんのミリタリーバンド向け編曲は、オーソドックスで軽快なマーチで、原曲の最後に『ヤンキー・ドゥードゥル』( Yankee Doodle、邦題:アルプス一万尺)が付加されています。

ジェリー・グレイさんのビッグバンド向け編曲は、スウィング・スタイルで、原曲中の挿入曲『コロンビア』と『ディキシー』をイギリスの民謡『ガール・アイ・レフト・ビハインド』(The Girl I Left Behind)に置き換えています。

 

アメリカン・パトロールの謎 その1

お待たせしました、ここからが本題です。

アメリカン・パトロールの謎その1は、それなりのポピュラリティを得ていたであろうピアノ版(1885年)やミリタリーバンド版(1891年)に対して、ジェリー・グレイさんとグレン・ミラーさんは、なぜ挿入楽曲に別の楽曲 『ガール・アイ・レフト・ビハインド』を選んだのかということです。

SPレコードに収録するため曲の長さに制約があったことは容易に想像できますが、挿入楽曲は原曲通り『コロンビア』と『ディキシー』でも良かったのではないか、とも思うわけです。

南北戦争から時代が経過していたので、それを象徴するような曲が不要だったからでしょうか。

それとも英米戦争の頃から『ガール・アイ・レフト・ビハインド』がアメリカの軍人達に歌い継がれてきたからでしょうか。

たぶんそれらの理由だけではなく、私は何か別の意図があったではないのかと思います。

1942年はグレン・ミラーさんが軍隊に志願した年とされていますので、もしかしたらグレン・ミラーさんによる『軍隊入隊への決意』が込められていたのではないかと勝手に思っています。

 

アメリカン・パトロールの謎 その2

こちらの方がある意味重大というか、「昔はこれでも良かったのね」ということなんでしょうけど……。

アメリカン・パトロールの謎その2は、ビッグバンド版の編曲のキー(調性)です。

YouTubeでグレン・ミラーさんの録音を漁ってみると、B♭が多いんですけど、A♭もあります!

アメリカン・パトロールを演奏している他のビッグバンドの動画も、B♭が多いのですが、A♭もあります。(なんとなく英国連邦方面のビッグバンドにA♭版が見受けられる気がします。)

ラッシュライフ社(Lush Life)の採譜譜面の説明には、「A♭版の譜面がいままで出回っていたが、グレンミラー楽団の演奏としてはB♭が正しい」(意訳)との記述がありまして、当然ですが、そのラッシュライフ社の譜面のキーはB♭です。

そして歴史のある日本の某出版社のビッグバンド譜面は…… A♭……。

 

なんでこんなことになってしまったのでしょうか???

 

グレン・ミラーさん亡き後のグレンミラー楽団はB♭で演奏し続けてきたようですし、話の流れからしても B♭が正しいようです。

となると、A♭版の発生は、SP盤レコードの録音や再生に起因するものだったのでしょうか?

それともレコード会社によるテンポ調整によるものでしょうか?

何か他の理由があるのでしょうか?

「音域がキツイから移調した」というのだったら話は分かりますが、もし、どうも良くわからない理由のためにA♭版の楽譜が出回ってしまっていたのだとしたら、グレンミラー楽団のオリジナリティがないがしろにされていたような気がします。

ちなみにオリジナル・ピアノ版のキーはD(ニ長調)、カール・フィッシャーさん編曲ミリタリーバンド版のキーはE♭(変ホ長調)です。

謎は晴れず…… 何年経ってももやもやと謎は謎のまま。

 

商品ご紹介

ということで、先程ご紹介したラッシュライフ社(Lush Life)の採譜楽譜はこちらです。

 

他にも各種バンド向けにアメリカン・パトロールの楽譜が出版されています。 こちらのリンクからご覧ください! American Patrolを検索

参考資料

Wikipedia

IMSLP

Discogs

YouTube

The Worlds’ Music Charts

 

編集後記

恥ずかしながら、今回(2017年)調べる直前まで、ミリタリーバンド版がこの曲のオリジナルかと思っていました。オリジナルはピアノ曲だったんですね。

アメリカン・パトロールについて、もしご存知のことがありましたら、遠慮なく教えて下さいね。 それではまた~!

 


更新履歴

  • 2017年11月9日:記
  • 2017年11月24日:ブログに公開
  • 2020年6月10日:オンラインショップシステム移転により非公開
  • 2022年4月1日:編集、メールニュース配信
  • 2022年4月15日:ブログに公開
Dive into a songグレン・ミラービッグバンド譜面

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