2022年のビッグバンド譜面振り返り

年末も近づいてきましたので、2022年のビッグバンド譜面について出版社ごとに振り返ってまとめてみます。

 

Back ground image: 愚木混株 Cdd20によるPixabayからの画像
Image edited: D. Yamazaki
この記事を書いた人:山崎 代三 (輸入楽譜専門店アムレス 店長)

 


 

コロナ禍により ハル・レオナルド社(Hal Leonard)や アルフレッド社(Alfred)などの欧米の楽譜出版社も大きなダメージを受けてしまい、昨 2021年は数多くの出版社が出版タイトル数を減らしました。

2022年は出版タイトル数だけで見るとだいぶ戻ってきた感じです。

では、出版社ごとに 2022年の動きを見てみましょう。

 

ハル・レオナルド社

ハル・レオナルド(Hal Leonard)社は、世界最大規模の楽譜出版社だけあってコロナ禍からの立ち上がりが早い印象です。

Tank! は、日本の作曲家 菅野よう子さん による作曲で、アニメ カウボーイ・ビバップ のオープニングテーマです。そして編曲は Caravan で有名な ジョン・ワッソン(John Wasson)さん です。難易度が高いですが中級以上のビッグバンドのみなさんでしたら十分に楽しめると思います。ぜひチャレンジしてみてください。

私がハル・レオナルド社のYouTubeのデモ音源をざっと聴いてみたところ……

ミシェル・フェルナンデス(Michele Fernández)さん の作品のコテコテラテン具合がとても印象に残りました。

また、ハル・レオナルド社お得意である曲集の新シリーズ Discovery Jazz Collection Volume 2 が出版開始されました。初中級バンドのレパートリー拡充にぜひどうぞ。

ハル・レオナルド社は、最近ではテイラー・スウィフト(Taylor Swift)さんの新作楽譜を音源公開とほぼ同時に販売するなど、会社全体としてとても活発な動きをしています。

 

アルフレッド社

アルフレッド(Alfred Publishing)社は、まだコロナ禍の様子見といったところで、販売には慎重な印象です。

ですが、かつて毎春恒例であった プロモーションカタログ配布 が、今秋から再開されました。

すこし良い兆しが見えてきた感じです。

今年 12タイトル出版されたビッグバンド譜面新譜の中で、ゴードン・グッドウィンさんの作品は1タイトルだけでした。 ビッグ・ファット・バンドのビッグバンド譜面出版は0が続いています。(難易度が高すぎることが原因のようです。)

 

ケンドール社 / エクセルシア社

エクセルシア(Excelcia)社によるケンドール(Kendor)社の買収 はアムレスの今年一番のトピックでした。

ケンドール社のブランドと膨大なカタログを引き継いだエクセルシア社が今度どのようにしていくのか、注目しています。

ケンドール社(ダグ・ビーチ[Doug Beach]社を含む)とエクセルシア社のビッグバンド譜面新譜はグレード1からグレード4までのオリジナル曲が中心です。

初級から中級のビッグバンドの教材としてぜひどうぞ。

 

ジャズラインズ社

ジャズラインズ(Jazz Lines)社は、2018年に買収したウォルラス(Walrus)社のタイトルの版元変更を少しずつ進めています。

つい最近ではボブ・フローレンス(Bob Florence)さんの代表作 Be Bop Charlie の出版が開始され始めました。

ウォルラス社 の出版ポリシーが 『作者から提供された楽譜をそのままの形で提供する』 であったのに対し、ジャズラインズ社 の出版ポリシーは 『ジャズ遺産を後世に残す』 ということです。

アムレスとしても「譜面が読みづらい」や「小節が抜けている」といったクレームが少なくなるので、非常にありがたく思っています。

ロブ・デュボフ(Rob DuBoff)さん、ディラン・カンタブリー(Dylan Cantabury)さん、そしてジェフリー・サルタノフ(Jeffrey Sultanof)さん、この3名による強固な編集チームは、カウント・ベイシー楽団を始めとした多くの遺産的作品を出版し続けています。

ウォルラス社

ウォルラス(Walrus)社では、出版開始から長年が経過しているタイトルはジャズラインズ社に置き換わりつつありますが、 今のイケてるビッグバンド譜面 が数多く出版され続けています。

ジョン・ワッソン(John Wasson)さん の作品はここでも出版されています。

『今のイケてる』には反しますが、 イアン・マクダガル(Ian McDougall)さんロブ・マッコネル(Rob McConnell)さんボス・ブラス(Boss Brass) に提供した作品も新たに出版されています!

FJH社 / HX社

FJH社からのビッグバンド譜面の新譜はゼロ状態が続いています。

代わって、FJH社が販売仲介を行っている HX社 から5タイトル新譜ビッグバンド譜面が出版されています。

HX社の今後に期待したいところです。

シエラ社

シエラ(Sierra)社は、昨年の新譜タイトル数は8タイトルでしたが、今年はその半分の4タイトルでした。

この事実から、シエラ社が一番コロナ禍の影響を受けているように思われます。

なんとか 往年の勢いを取り戻してほしい ものです。

バーンハウス社

2021年も2022年も新譜タイトルは出版されていますがアムレスのカタログには未登録です。

登録遅れについて、誠に申し訳ございません。

ラッシュライフ社

新譜タイトルはゼロ状態が続いています。

UNC社

UNC(UNC Jazz Press)社は、印刷出版停止状態が続いています。

ジャズラインズ社関連

以下の3社はジャズラインズ社のカタログを整理する中で その存在が明らかになった出版社 です。

 

ジャズ・アット・リンカーンセンター社

ジャズ・アット・リンカーンセンター(Jazz At Lincoln Center)社は、20年ほど続いていた 旧ワーナー・ブラザーズ・パブリッシング社(Warner Bros. Publishing, アルフレッド社が買収)との出版契約を更新せず、新たに出版社として独立しました。

出版楽譜の内容は、アルフレッド社の エッセンシャル・エリントン(Essential Ellington)シリーズジャズ・アット・リンカーンセンター(Jazz At Lincoln Center)シリーズ を踏襲しており、 デューク・エリントン(Duke Ellington)楽団リンカーン・センター楽団(Lincoln Center Jazz Orchestra) などで演奏されたビッグバンド譜面ばかりです。

出版物の親和性、地理的親和性から(ここまで私の憶測です)、ジャズラインズ社に印刷販売を業務委託しているようです。

サッチ・スウィート・サンダー社

サッチ・スウィート・サンダー(Such Sweet Thunder)社は、ジャズ・アット・リンカーンセンター・シリーズの採譜でおなじみの、 デヴィッド・バーガー(David Berger)さん の出版社です。

バーガーさんによるアレンジ、採譜を中心に希少なビッグバンド譜面を出版しています。

 

ベーカーズ・ジャズ社

ベーカーズ・ジャズ(Baker’s Jazz and More)社は、アレンジャー、 ポール・ベーカー(Paul Baker) さんの出版社です。

社名が表しているように、ベーカーさんのオリジナル曲とアレンジ曲を中心に他の作者の曲も含め、グレード2からグレード5のビッグバンド譜面を出版しています。

音源を聴いてみた限りでは、 学生ビッグバンドさんが好みそうな曲が多い 感じです。

 

まとめ

出版社網羅的と言えば聞こえは良いですが、かなり機械的に新譜をご紹介させていただきました。

楽譜出版の業界でもコロナ禍の影響はしばらく続きそうです。

演奏者のみなさまのご健康とご無事を祈っております。

(追記)
ブログ公開の少し前に、Alfred社が FJH社の出版物の独占販売権を取得したとのニュースが入ってきました。これもコロナの影響でしょうか……。 

 


更新履歴

  • 2022年11月13日:メールニュース配信
  • 2022年12月16日:ブログ記事公開
Publisher who's whoビッグバンド譜面

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